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神戸地方裁判所 平成5年(行ウ)3号 判決

原告

株式会社ダイヤモンドリゾート

右代表者代表取締役

中田修

原告

ダイヤモンド有馬温泉ソサエティ管理組合

右代表者管理者理事長

中田修

右原告ら訴訟代理人弁護士

中垣一二三

針間禎男

藤本裕司

被告

兵庫県兵庫財務事務所長

湯賀運

右訴訟代理人弁護士

上谷佳宏

右訴訟復代理人弁護士

木下卓男

右指定代理人

松田直人

森廣洋子

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一被告が原告らに対して平成元年一月九日付けでした料理飲食等消費税についての更正処分及び過少申告加算金の賦課決定処分をいずれも取り消す。

二被告が原告らに対して平成二年三月六日付けでした料理飲食等消費税及び特別地方消費税についての更正処分及び過少申告加算金の賦課決定処分をいずれも取り消す。

三被告が原告らに対して平成三年二月一四日付けでした特別地方消費税についての更正処分及び過少申告加算金の賦課決定処分をいずれも取り消す。

四被告が原告らに対して平成四年二月二六日付けでした特別地方消費税についての更正処分及び過少申告加算金の賦課決定処分をいずれも取り消す。

第二事案の概要

一本件は、被告が、オーナー制リゾートホテルである有馬温泉ソサエティ(以下「本件施設」という。)におけるオーナーの利用行為が地方税法(以下「法」という。)一一四条四項に該当し、特別地方消費税(平成三年七月一日改正前は料理飲食等消費税)の課税対象となると判断して、原告らに対し、更正処分及び過少申告加算金の賦課決定処分(以下、平成元年ないし平成四年の右各処分を併せて「本件処分」という。)をしたのに対し、原告らが、オーナーの利用行為は同項に当たらないと主張して、本件処分の適法性を争った事案である。

二争いのない事実

1  被告は、原告らに対し、平成元年一月九日付けで料理飲食等消費税についての更正処分及び過少申告加算金の賦課決定処分をした。

2  原告らは、右処分について平成元年三月一日に兵庫県知事に対しその取消しを求めて審査請求をし、兵庫県知事は、同年一〇月一八日、この審査請求を棄却し、原告らが同月二〇日にこの通知を受けた。

3  被告は、原告らに対し、平成二年三月六日付けで料理飲食等消費税及び特別地方消費税についての更正処分及び過少申告加算金の賦課決定処分をした。

4  原告らは、右処分について平成二年四月二六日に兵庫県知事に対しその取消しを求めて審査請求をし、兵庫県知事は、同年七月二六日、この審査請求を棄却し、原告らが同月三〇日にこの通知を受けた。

5  被告は、原告らに対し、平成三年二月一四日付けで特別地方消費税についての更正処分及び過少申告加算金の賦課決定処分をした。

6  原告らは、右処分について平成三年四月五日に兵庫県知事に対しその取消しを求めて審査請求をし、兵庫県知事は、平成四年二月二四日、この審査請求を棄却し、原告らが同月二六日にこの通知を受けた。

7  被告は、原告らに対し、平成四年二月二六日付けで特別地方消費税についての更正処分及び過少申告加算金の賦課決定処分をした。

8  原告らは、右処分について平成四年四月一六日に兵庫県知事に対しその取消しを求めて審査請求をし、兵庫県知事は、平成四年一二月四日、この審査請求を棄却し、原告らが同月五日にこの通知を受けた。

第三当事者の主張

一原告らの主張

1  更正処分の相手方

(一) 原告株式会社ダイヤモンドリゾート(以下「原告会社」という。)は、原告ダイヤモンド有馬温泉ソサエティ管理組合(以下「原告管理組合」という。)から委託を受けて、神戸市北区有馬町四二三番地所在の本件施設を管理しているもので、法一一四条四項の「経営者」に当たらないので、申告、納税の義務はない。

(二) 本件施設は、オーナーの共有物であり、オーナーらの組合である原告管理組合が経営している。

2  みなす課税の解釈

(一) 仮に原告会社が経営者に当たるとしても、原告らに対する本件各更正処分には、みなす課税の条項の解釈に誤りがある。

(二) 被告は、原告らがオーナーにオーナー優待券を発行しその宿泊料を無料としている行為が法一一四条四項に該当すると解している。

しかし、オーナーは、本件施設に対し共有持分権を有しているから、原告らに宿泊について料金を支払うことは考えられない。したがって、原告らの右行為は、同項の「料金を徴収せず…………利用行為をさせた」場合に当たらない。

(三) オーナーはオーナー優待券を使い切ると一泊につき四八〇〇円を支払って宿泊することになるが、これは、他の共有者の利用を妨げないように、公平のために、共有者間の規約として他の共有者に金を支払うことになっているのであって、オーナー以外の者が支払う「料金」とは性質を異にする。

実際に、オーナーが優待券以上の利用をする例は極めて少ない。

(四) 本件の利用行為は、法一一四条四項、地方税法施行令(以下「施行令」という。)四一条各号に当たらない。

施行令四一条二号は、経営者が会員制等の形式をとることにより、料理飲食等消費税(特別地方消費税。以下「本件消費税」という。)を免れることを防止しようとするものであり、オーナーが所有権の行使として利用行為をする本件とは類似性が認められない。

また、経営者が料金以外の何らの反対給付を受けていない場合や経営者が反対給付というものと無関係な場合には、同項の要件には当たらないが、本件では、原告管理組合も原告会社もオーナーから料金以外の反対給付を受けていないか、あるいは反対給付というものと無関係であるから、同項の要件に当たらない。

3  みなす料金

(一) 本件が法一一四条四項に該当するとしても、みなす料金は、四八〇〇円であるから、結局、法一一四条の五第一項により免税点以下である。

(二) 本件各更正処分は、みなす料金を七五〇〇円としているが、オーナーは、本件施設の共有者であり、本件施設の不動産につき固定資産税、都市計画税、その他公租公課を持分に応じて負担し、施設の維持のための管理費をも毎年支払っているものであるから、オーナー以外の者が支払うべき料金より、オーナー料金の方が低額なのは当然である。

また、原告らは、本件施設のオーナー料金を四八〇〇円と設定し、仮に経費がこれを超過するとしても、オーナーからは徴収せず、宿泊料以外の飲食代金収入やオーナー以外の者からの宿泊料収入でこれを賄うことにしているものである。

(三) したがって、本件施設においてオーナー料金が他の施設より低料金であっても、それは経営者の経営努力によるものであり、オーナーが通常支払うべき料金は四八〇〇円である。

4  以上のように、本件各更正処分は違法であり、それを前提とする本件各賦課決定処分も違法であるから、その取消しを求める。

二被告の主張

1  経営者について

(一) 原告管理組合の経営者該当性

原告管理組合は、本件施設の管理運営に伴う収益の帰属主体であり、本件施設の管理運営に関与していること、自ら申請して、本件施設の「経営者」として特別徴収義務者の登録を受けるとともに、本件施設において、利用客が現実に支払った利用料金については、利用客から本件消費税を特別徴収し、被告に申告していることから、本件施設の経営者であるといえる。

(二) 原告会社の経営者該当性

原告会社は、次の理由により、名義上のみならず、実質上も「経営者」に該当する。

(1) 原告会社は、原告管理組合から本件施設の運営管理一切を委託されている。

(2) 本件施設の利用料金、利用関係については、管理組合規約及び使用細則に規定されているが、これらは原告会社がオーナーの募集前に一方的に作成したもので、オーナーに選択の余地はない。

(3) 原告管理組合の役員は、第一期は原告会社が指名・決定し、第二期以降は前任の理事長が指名・決定するものとされ、実際に原告会社の代表取締役中田修が第一期以降原告管理組合の理事長を兼任し、理事には取引銀行や取引先、株主など原告会社と関係のある者を充てており、これにより、原告会社は、本件施設の利用料金、利用関係等の重要事項を事実上決定し、経営の主導権を掌握し、特に利用料金については、開業当初においては、本件施設をはじめとする共有制ホテル全てが同一料金となるよう原告会社が利用料金を決定しているほか、料金改定を経ても共有制ホテル全てが同一料金となっており、料金改定時も含め、本件施設をはじめとする共有制ホテル全体の収支を考慮して、原告会社が利用料金を決定している。

(4) 本件施設の支配人、副支配人、フロント係その他の管理部門の従業員は、全て原告会社からの出向社員であり、法人税等の申告に当たっても、これら原告会社からの出向社員が原告会社の指導のもとに申告書を作成し、一部は原告会社の経理部社員が申請書を作成している。

(5) 原告会社は、旅館業法、食品衛生法及び消防法の許可を受け、事業所税の申告を行うなど名義上の経営者であるばかりでなく、本件施設をはじめとする共有制ホテルを預託金制ホテルとともに、「ダイヤモンドクラブ」の一つとして位置づけて、相互利用可能なリゾートクラブシステムとして全国的な事業展開を図っている。

(6) 自社の事業報告書に事業目的として「オーナーズホテル経営」と記載するとともに、本件施設を原告会社の主要な事業所の一つとして記載し自ら本件施設の「経営者」である旨を自社の重要書類に表示している。

(三) したがって、原告会社は原告管理組合を事実上支配しており、両者は、当初から不可分一体のものとして、本件施設の経営を行っているといえる。

2  みなす課税について

(一) 本件消費税は、一定の場所における一定の利用行為に対して課税するものであるから、その利用行為者が当該場所を所有していても、これらの課税の要件が満たされる限り課税されるものであり、本件消費税におけるみなす課税制度は、特定の場所における特定の利用行為の実態が本件消費税の課される場合と異ならない場合に課税を認めることによって課税の公平を維持し、負担の均衡を図ろうとするものであり、料理店等の経営者が、料金を徴収せず、又は料理店等における通常の料金に比較して低い料金を徴収して遊興・飲食・宿泊等の利用行為をさせた場合において、経営者と利用行為者との間に特別な経済的関係があるときは、当該料理店等の経営者に対し、その利用行為者が料理店等における遊興等の行為について通常支払うべき料金を支払ったものとみなして算定した額により、本件消費税を課すものである。

(二) そして、法に定める本件消費税の課税の要件は、法律的説明の如何にかかわらず、社会的実態として、ホテルとしての利用関係が存すれば足りるものであるが、次のとおり、本件施設の利用関係については、ホテルと全く同様に物的・人的サービスが供給され、それを享受するという関係が認められるから、法一一四条四項に規定する要件に該当する。

(1) 場所について

① 法一一三条一項の「旅館」とは、ホテル、旅館等その名称の何であるかを問わず、業として客室を設け、通常一日又は数日を単位とする宿泊料を受けて宿泊させる場所をいうものであり、利用行為が反復継続していれば、営利を目的とするか否かは問わない。

② 本件施設は、神戸市北区有馬町四二三番地に存在し、鉄筋コンクリート造、寄棟、地下一階、地上五階建の建物で客室一二四室より構成され、フロント、クローク、ラウンジ、レストラン等の設備があり、客室には、トイレ、バスも備えつけられている(なお、客室には、流し台等台所設備はない。)。

③ 原告会社は、本件施設について、昭和五八年二月一四日付けで旅館業法三条の経営の許可を、昭和五九年三月二三日付けで食品衛生法二一条の営業の許可をそれぞれ神戸市保健所長より受けている。

旅館業法三条の経営の許可の基準には、施設の構造設備の詳細な基準が設けられているのであるから、この経営の許可を受けている施設は、法的にも形態上からも旅館として認められるものである。

④ 本件施設は、食品衛生法及び消防法上も「旅館」又は「ホテル」として取り扱われているし、本件消費税の特別徴収義務者の登録に当たっては、原告会社及び原告管理組合が「普通旅館」として申請を行い、法人税、住民税、事業所税等の申告に当たっても、原告管理組合は、「ホテル事業」として申告を行っており、特に事業所税については、「ホテル事業」に該当するものとして、税額を二分の一とする優遇措置の適用を受けている。

⑤ また、そこで提供されるサービス(宿泊の予約、フロントサービス等)も一般のホテルと同様のものであることからみて、本件施設は、法一一三条一項に規定する「場所」に該当する。

(2) 利用行為について

本件施設のオーナーは、原告管理組合の規約及び使用細則に基づきオーナーカード、無料宿泊券が与えられる。無料宿泊券は、年間五枚発行され、それ以上の利用をする場合は、オーナーは四八〇〇円の料金を支払う。オーナーの家族、友人等もオーナーメイトチケットにより七五〇〇円で利用することができる。

また、使用細則五条によれば、オーナーとの関係を持たない原告会社の指定する者も利用できることになっており、更に、オーナーは、本件施設だけでなく原告会社が経営する他のホテル等を利用することもできる。

利用に際し、使用細則二条によれば、希望日の二か月前より申込み、先着順に予約することとなっている。また、使用細則八条及び九条により、滞在日数、利用回数にも制限がある。

チェックイン及びチェックアウトタイムは、使用細則一〇条によれば、当日の午後三時から翌日の午前一一時で、利用できる部屋数は、使用細則一二条により、オーナーカード一枚につき、一室のみ利用できるものとなっている。

このような利用形態は、一般のホテルの利用形態と全く同じであり、法一一四条四項に規定する「利用行為」に該当することは明らかである。

原告会社自身、本件施設及び類似の施設に「ホテル」という名称を冠してオーナーの募集を行っている。

(3) 料金徴収について

オーナーは、利用料金表によれば、本件施設を利用する際に次の利用料金を支払う。

利用形態        利用料金

オーナー(優待券利用)

一室一泊利用につき無料

(その他)

一室一泊利用につき四八〇〇円

オーナーメイト

一室一泊利用につき七五〇〇円

ダイヤモンドクラブ会員

一室一泊利用につき一万一〇〇〇円

料金については、無料の場合はもちろん、四八〇〇円の利用料金も近隣の同程度のホテル等と比較して著しく安価であり、原価も下回っていることから、通常の料金に比べて著しく低いといえる。

(4) 経営者と利用行為者との特別な経済的関係があることについて

オーナーは、オーナーの資格を取得する際に四〇〇万円を支払い、本件施設の管理費を月々四〇〇〇円支払うことにより、本件施設を無料又は安価で利用することができることになるのであるから、このような利用は、経営者と利用行為者との間の特別な経済的関係に基づく利用である。

具体的には、オーナー資格の取得費は、法一一三条一項の場所の経営者が、入会金、権利金等を受けて、宿泊行為をさせる場合に準ずる場合(施行令四一条三号)に該当するといえる。

また、管理費は、本件施設の維持、管理及び保存のための費用として、オーナーが支払うとされているが、原告管理組合の収支計算書によると、管理費は、維持、管理及び保存のためのみならず、本件施設を経営するための経費の補填としても使用されており、また、第四期(昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日まで)の「管理経過及び会計報告書」によれば、管理費は特別修繕積立金に組み入れられているが、欠損を生じた場合、その特別修繕積立金からその補填を行うものとされており、このことから考えると、当該管理費は施行令四一条二号の会費等に該当するといえる。

なお、形式的には、オーナー資格の取得費は原告会社に、本件施設の管理費は原告管理組合に、それぞれ別個に支払われているものであるが、原告会社及び原告管理組合は、当初から不可分一体のものとして本件施設を共同経営しているものであるから、両者を分けて論じることは実態を無視した議論である。

(5) 業としての経営の実態が存することについて

本件施設は、その構造設備及び供給されるサービス等からみて、一般のホテルと全く同視することができ、対象も不特定多数で宿泊行為が反復継続しており、名称の如何を問わず対価として利用料金を徴しているし、実績からみても、昭和五九年三月二六日経営開始以来引き続き営業を行っており、原告管理組合の第四期の「管理経過及び会計報告書」によれば、その一年間で延べ二万六七五七室が利用されている。

従業員も、支配人一人、副支配人二人、その他、パート・アルバイト等を含めて、総数で七七名が従事している。

以上のとおり、物的・人的サービスを供給する施設設備を備えて、これらのサービス等を供給していることからみて、本件においては、業としての経営の実態が存するといえる。

(三) 共有持分の性格について

共有制のリゾートクラブは、一般に共有持分を不動産として評価した場合の財産的価値はさしたるものではなく、資産保全機能は限定的なものにすぎない。

本件施設についてみても、オーナー一人当たりの面積は、4.0平方メートルで共有持分の分割や単独処分も禁止されており、建物及び土地の価格からすると、オーナーの共有持分の原価は約六四万円にすぎず、オーナー資格の取得代金である四〇〇万円に比して著しく低額である。

仮に本件施設の利用権がなく、一般のホテルにおけるような物的・人的サービスの供給が行われないのであれば、わずかな共有持分の取得のために四〇〇万円もの代金を支払うことは通常考えられないことであるから、オーナー資格の取得代金は、物権である本件施設の共有持分の対価という性質だけでなく本件施設をホテルとして利用するための入会金又は権利金という性質を併せて有するものであり、オーナーが取得した権利は、所有権とホテルの利用権が複合した権利というべきものである。

したがって、共有持分の保有は、オーナー資格の取得代金のうち当該共有持分に係る財産的価値を保全するための手法の性格が強いものであり、本件施設は、実質的には、預託金制のリゾートクラブと同様に、当初に利用料金の前払いとして金銭を預託し、その見返りに施設を無料又は安価で利用することができるシステムであるといえる。

(四) このように、本件施設における利用行為の実態が一般のホテルにおける利用行為と異ならない以上、課税をしないことはかえって一般のホテルにおける利用行為との間に不公平・不均衡を生じさせ、不当な租税の回避を看過することになり、許されない。

3  みなす料金の算定について

(一) みなす課税を適用する場合は、みなす料金額、すなわち「その場所における通常支払うべき料金(以下「通常料金」という。)を支払ったものとみなして算定した額」を課税標準とすることとされている。

この通常料金とは、当該場所について経済的に特別の関係を有しない者が当該場所を利用した場合に通常支払うべき利用料金を意味し、具体的な額については、次のような考え方に基づくこととされている。

(1) ビジター料金の設定がある場合には原則としてその料金

(2) 利用行為のために必要とされる経費に一定の利益を加えた金額

(二) 右(1)について、本件の場合、ビジター料金という名目の料金設定はないが、オーナー以外の者による利用の料金で、実質的にビジター料金と考えられるものとしては、オーナーメイトの料金とダイヤモンドクラブ会員の料金があるが、このうち、オーナーメイトによる利用がオーナー以外の者による利用に占める構成比は極めて高いので、オーナーメイト料金を本件施設における「ビジター料金」とすることが、経営実態に合致するといえる。

(三) 右(2)については、本件の場合、別紙1のとおり算出された経費(六〇九〇円)に一定の利益を加えた金額が通常料金となるが、本件について、経費の六〇九〇円に一定の利益を加えて七五〇〇円とすることは、概ね相当であるから、この点からも、通常料金を七五〇〇円とするのは相当である。

(四) 参考のため、損益分岐点売上額を算定し、一室一回利用当たりの損益分岐点ルームチャージを算定すると別紙2のとおり、六四〇〇円が算出された。

(五) 以上からすれば、実質的にビジター料金であるオーナーメイト料金が、別紙1により算出した経費に一定の利益を加えた額と同額になると考えるのが最も合理的であり、かつ、最も実態に合致するといえる。

したがって、オーナーメイト料金を本件における通常料金とすべきであり、これは、また、別紙2により算出した損益分岐点ルームチャージに照らしても、課税の上で経営者に過度の負担を強いることにもならず、課税の均衡を保つ上でも合理的である。

三被告の主張に対する原告らの反論

1  被告は、本件施設の売買代金は、不動産の売買代金としてよりも、本件施設を使用する権利の対価としての性格が強いと主張するが、原告会社は、本件施設の売買に当たり、不動産の譲渡益として法人税、住民税及び事業税を課され、これには、土地重課の規定による法人税及び住民税さえ含まれている。また、この税額は代金の一部を保証金とするいわゆる預託金制をとった場合よりも多額なものとなっている。

原告管理組合は、本件施設の経営に関連して、法人税、事業税、住民税及び事業所税を課されているし、各オーナーは、本件施設について、各持分に応じた固定資産税を課されている。

2  被告は、一方で形式を重視して右のような課税を行い、他方で本件のように税法上の法規を類推ないし拡張解釈して課税をしようとしているのであり、課税主体側の都合のよいように租税の種類によって変転させて主張するのは、禁反言の原則ないし信義則に反する。

3  また、施行令四一条各号が本件のような場合を含むとすれば、本件消費税以外の他の各租税の課税との間に不合理をきたすものであるから、政令への委任の限界を超えており、租税法律主義に反する。

4  さらに、施行令四一条は、経営者が利用行為の潜在的な対価を別途に受領している場合を定めているものであると解されるが、本件のように対価性がない場合をも含むと解するのであれば、課税要件明確主義に反する。

四争点

1  本件施設の経営者は誰か。

2  本件施設の利用は、法一一三条一項の規定する「場所」における「利用行為」に当たるか。

3  本件施設におけるオーナーの利用は、法一一四条四項の「料金を徴収せず、又はその場所における通常の料金に比較して著しく低い料金を徴収」する場合に当たるか。

4  本件施設におけるオーナーの利用は、法一一四条四項の「政令で定める場合」に該当するか。

5  みなす料金はいくらか。

第四争点に対する判断

一争点1について

1  被告は、本件施設のオーナーによる利用行為は、法一一四条四項に該当すると主張するので、まず、同項の趣旨について検討するに、本件消費税は、料理店等における利用行為には一般的に担税力が推定されるため一定の場所における一定の利用行為に限定して一律に課税するものであるが、経営者が利用者から料金以外の何らかの給付を受け、そのため当該利用者に対し無料又は低料金で利用行為をさせる場合、料金が無料であるからといって課税をしなかったり、低料金であるからといってこれに相当する税額でしか課税しないとすると、他の料理店等や宿泊所等との均衡を欠き、税負担の回避を容易に行うことが可能となる。

そこで、税負担の公平、税負担の回避の防止のために料理店等の経営者が料金を徴収せず、又は料理店等における通常の料金に比較して低い料金を徴収して遊興・飲食・宿泊等の利用行為をさせた場合において、経営者と利用行為者との間に特別な経済的関係があるときは、当該料理店等の経営者に対し、その利用行為者が料理店等における遊興等の行為について通常支払うべき料金を支払ったものとみなして算定した額により、課税するものである。

2 したがって、法一一四条四項の「経営者」に該当するか否かは、社会通念によって判断すべきであるが、同項の趣旨からすれば、旅館業法、食品衛生法、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等他の法律の規定によって営業の許可を受けた名義上の経営者のみならず、実質上の経営者がこれと異なる場合においては、その実質上の経営者も含まれると解すべきであり、同項についての実務の先例である昭和五三年一月一一日自治府第三号「メンバーズホテルに係る料理飲食等消費税の課税について」(乙第六号証)も、右と同様の考えに立っているものと認められる。

3  そこで、この観点から本件施設の経営者は誰かについて検討するに、甲第八号証の一ないし三、第九号証の一ないし四、第一〇、第一一号証の各一ないし五、第一七号証、第二七号証の一、乙第二、第三号証、第一三、第一四号証、第一七号証、第一九号証、第四五号証の一、二、証人松村守の証言、原告管理組合代表者兼原告会社代表者(以下「原告会社代表者」という。)尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件消費税の特別徴収義務者の登録に当たっては、原告会社及び原告管理組合が普通旅館として申請を行い、法人税、住民税、事業所税等の申告に当たっては、原告管理組合は、ホテル事業として申告を行っており、特に事業所税について、ホテル事業に該当するものとして、税額軽減の優遇措置の適用を受けている。

(二) 本件施設の利用に関して支払われた料金は、原告管理組合の収入となり、原告管理組合は、理事会の決定により、人件費、修繕費、水道光熱費等の諸費用を支出している。

(三) オーナーは、原告管理組合に対し、管理費として一か月につき四〇〇〇円を一年ごとに一括して支払っている。

4 このように、本件施設の利用料金は、原告管理組合に支払われ、本件施設の運営についての費用の支出は、原告管理組合が行っている。更に、本件消費税の特別徴収義務者の登録に当たっては、原告管理組合が申請を行い、法人税、住民税、事業所税の申告に当たっても、原告管理組合が申告を行っていることからすれば、名義上は、原告管理組合が本件施設の経営者であるといえる。

5  次に、原告会社が経営者に当たるかについて検討するに、法一一四条四項は、経営者が利用者から料金以外の何らかの間接的給付を受けていることにより当該利用者に対して無料又は低料金で利用行為をさせる場合に、その料金に対して課税を行うこととすると、他との間に不均衡を惹起せしめること等から、このような場合には、料金以外の反対給付がされない通常の場合の料金を課税標準として、当該行為について実質的に負担をする当該場所の経営者を納税者とみなして課税をする制度である。

6  この観点から検討するに、乙第一一ないし第一五号証、第四七、第四八号証、証人松村守の証言及び原告会社代表者尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告会社は、共有制ホテルを預託金制ホテルとともに「ダイヤモンドクラブ」の一つとして位置づけて、相互利用可能なリゾートクラブシステムとして全国的な事業展開を図っている。

(二) 原告会社は、本件施設をその一環として、土地については約四億七〇〇〇万円、建物等については約二二億二〇〇〇万円で取得し、オーナーを一口三二〇万円から四〇〇万円、計一八〇〇口約六一億五〇〇〇万円で分譲し、約二六億七〇〇〇万円の営業利益を得ている。

(三) 原告会社は、形式上は原告管理組合から本件施設の運営管理一切を委託されていることになっているが、本件施設の利用料金、利用関係について規定されている管理組合規約及び使用細則は、原告会社がオーナーの募集前に一方的に作成したものでオーナーに選択の余地はなく、原告管理組合の役員は、第一期は原告会社が指名、決定し、第二期以降は前任の理事長が指名、決定するものとされており、原告会社の代表取締役中田修が第一期以降原告管理組合の理事長を兼任し、理事には取引銀行や取引先、株主など原告会社と関係のある者を充てており、これにより、原告会社が本件施設の利用料金、利用関係等の重要事項を事実上決定し、特に利用料金については、開業当初において、本件施設をはじめとする共有制ホテル全てが同一料金となるよう原告会社が利用料金を決定しているほか、料金改定を経ても共有制ホテル全てが同一料金となっており、料金改定時も含め、本件施設をはじめとする共有制ホテル全体の収支を考慮して、原告会社が利用料金を決定している。

(四) 本件施設の支配人、副支配人、フロント係その他の管理部門の従業員は、全て原告会社からの出向社員であり、法人税等の申告に当たっても、これら原告会社からの出向社員が原告会社の指導のもとに申告書を作成し、一部は原告会社の経理部社員が申請書を作成している。

(五) 原告会社は、昭和五八年二月一四日付けで旅館業法三条の経営の許可を、昭和五九年三月二三日付けで食品衛生法二一条の営業の許可をそれぞれ神戸市保健所長より受け、事業所税の申告を行っているばかりでなく、自社の事業報告書に事業目的として「オーナーズホテル経営」と記載するとともに、本件施設を原告会社の主要な事業所の一つとして記載し、自ら本件施設の「経営者」である旨を自社の重要書類に表示している。

(六) 原告会社の経営委託に伴う報酬額は、原告管理組合の理事会で決定され、その方法は、運営委託料として、原告会社からの出向社員人件費の二〇パーセント相当額、経営指導料として、基本報酬年額一部屋当たり一〇万円に加え、原告管理組合の年間総売上高の二パーセント相当額とされている。

7 以上の事実からすれば、本件施設の運営管理についての実質的決定権は原告会社にあり、本件施設の運営管理は、原告会社の事業の一環として行われていることが認められるから、原告会社は本件施設の実質上の経営者であると解すべきであり、原告管理組合及び原告会社は、ともに、法一一四条四項の「経営者」に該当するといえる。

二争点2について

1  被告は、オーナーの利用行為が法一一四条四項にいう旅館における宿泊行為に該当すると主張するが、前述した法一一四条四項の趣旨によれば、同項にいう「旅館」における「宿泊行為」とは、ホテル、旅館等その名称の何であるかを問わず、業として客室を設け、通常一日又は数日を単位とする宿泊料を支払って宿泊する行為で、不特定多数人の利用行為が反復継続していることを意味し、営利を目的とするか否かは問わないと解すべきである。

2  そこで、この点について検討するに、甲第一七号証、乙第一ないし第三号証、第一二、第一三号証、第一七号証、第四九号証、第五〇号証の一、二、証人松村守の証言によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件施設は、昭和五九年三月ころ神戸市北区有馬町四二三番地に完成し、鉄筋コンクリート造、寄棟、地下一階、地上五階建の建物で客室一二四室より構成され、一階には、フロント、ロビー、クローク、ラウンジ、レストラン、会議室、ダイヤモンドホール、オーナーサロン等、地下一階には、男子・女子大浴場、家族浴室、サウナ等の設備があり、二階から五階の客室には、トイレ、バスが備えつけられているが、流し台等の台所設備はない。

(二) 本件施設のオーナーは、原告管理組合の規約及び使用細則に基づきオーナーカード、無料宿泊券、オーナーメイトチケットが与えられる。オーナーカードには、オーナーとオーナーの妻が登録され、一枚につき原則として一室の利用が可能である。無料宿泊券は、年間五枚発行され、オーナーとオーナーの妻が一枚につき一室一泊の利用ができる。無料宿泊券以上の利用をする場合は、一泊一室四八〇〇円の料金を支払う。オーナーメイトチケットは年間三〇枚発行され、オーナーの家族、友人等もオーナーメイトチケット一枚につき、一泊一室七五〇〇円(平成四年一月から九〇〇〇円に値上げされた。)で利用することができる。

また、オーナーとの関係を持たない原告会社の指定する者もメイトとして一泊一室五〇〇〇円で利用できることになっており、オーナーは、本件施設だけでなく原告会社が経営する他のホテル等もダイヤモンドクラブ会員として利用することが認められる。

原告会社の経営する他のホテル等のオーナーもダイヤモンドクラブ会員として本件施設を利用することができ、その利用料金は一泊一室一万一〇〇〇円である。

滞在日数、オーナーの利用回数については、原則として制限はないが、利用に際しては、希望日の二か月前から申込み、先着順に予約することとなっている。

本件施設利用者は、カード、チケットをフロントに提示することとし、滞在時間は、チェックインタイムが午後三時、チェックアウトタイムが午前一一時である。

オーナーは、レストランの利用については、飲食終了時に、オーナーカードを提示してサインで済ませ、チェックアウト時に、部屋の利用料金の他、サウナ、ヘルスクラブ、レストランの料金をまとめて支払うことができる。

(三) 本件施設の利用人員は、昭和六三年では、オーナーが約九〇〇〇人、オーナーメイトが約一万二〇〇〇人、ダイヤモンドクラブ会員が約九〇〇〇人、メイトが約二三〇〇人、平成元年度では、オーナーが約一万人、オーナーメイトが約一万二〇〇〇人、ダイヤモンドクラブ会員が約八〇〇人、平成二年度では、オーナーが約九〇〇〇人、オーナーメイトが約一万五〇〇〇人、ダイヤモンドクラブ会員が約一三〇〇人、平成三年度では、オーナーが約一万人、オーナーメイトが約一万四〇〇〇人、ダイヤモンドクラブ会員が約一四〇〇人で、昭和六三年度の室利用率は60.3パーセント、室利用料収入は一億四二八〇万九〇〇〇円、平成元年度の室利用率は61.7パーセント、室利用料収入は、一億五二四五万八〇〇円、平成二年度の室利用率は65.8パーセント、室利用料収入は一億九五八九万八六〇〇円である。

(四) 本件施設の従業員は、平成三年三月三一日現在で支配人一名、副支配人一名、フロント八名、他パート・アルバイトを含めて合計七六名である。

(五) 原告会社は、本件施設について、昭和五八年二月一四日付けで旅館業法三条の経営の許可を受け、昭和五九年三月二三日付けで旅館又はホテルとして食品衛生法二一条の営業の許可を神戸市保健所長より受けている。

更に、本件消費税の特別徴収義務者の登録に当たっては、原告会社及び原告管理組合が「普通旅館」として申請を行い、法人税、住民税、事業所税等の申告に当たっても、原告管理組合は、「ホテル事業」として申告を行っており、特に事業所税については、「ホテル事業」に該当するものとして、税額軽減の優遇措置の適用を受けている。

3 右で認定したとおり、本件施設は、オーナー、オーナーメイト、メイト、ダイヤモンドクラブ会員という資格により金額は異なるが、いずれも利用についての対価を支払って部屋に宿泊しており、オーナーのみでなく、オーナーの知人、原告会社の指定する者、原告会社の他のホテルの会員等の不特定多数の者が利用できる仕組みになっていること、部屋だけでなく、フロント、クローク、ラウンジ、レストラン等の設備、滞在時間の制限、フロントサービスの内容、宿泊の申込み方法、レストラン等諸設備の利用方法、従業員のサービス等、利用形態は通常のホテルと全く変わらず、各年度の利用人員、室利用率、室利用料収入からみて本件施設が反復継続して利用されていること、旅館業法三条に基づく経営の許可を受けるためには、施設の構造設備についての詳細な基準が設けられており、本件施設はこの基準を満たしているため許可を得られたものであることからすれば、本件施設のオーナーによる利用行為は、法一一四条四項にいう「場所」における「利用行為」ということができる。

三争点3について

1  被告は、本件施設をオーナーに利用させる行為は、法一一四条四項の「料金を徴収せず、又はその場所における通常の料金に比較して著しく低い料金を徴収」する場合に当たると主張するので、この点について検討するに、前記認定事実によれば、本件施設のオーナーは、原告管理組合の規約及び使用細則に基づきオーナーカード一枚と無料宿泊券を年間五枚発行され、オーナーカード一枚について一室の利用が可能で、無料宿泊券では、オーナーとオーナーの妻の一枚につき一室一泊の利用が無料となり、無料宿泊券以上の利用をする場合は、一泊一室四八〇〇円の料金を支払う仕組みとなっている。

したがって、無料宿泊券による場合は当然に、それ以上の宿泊の場合の一泊一室四八〇〇円という料金についても、本件施設が有馬温泉という近畿地方屈指の温泉街に存在し、神戸市内にあって大阪・京都からも近いという場所的条件及び大浴場等の温泉施設をはじめとする客室その他の設備内容の充実度からすれば、社会通念上、「通常の料金に比較して著しく低い料金」に該当すると解すべきである。

2  この点について、原告らは、オーナーは本来本件施設の所有者であり、共有持分権を有しているから、料金を支払わないのは当然であるし、無料宿泊券を使い切ったときに金員を支払うのは、他の共有者との公平のためであるから、この場合の金員は、法一一四条四項の「料金」には当たらず、同項の要件を満たさないと主張する。

しかし、甲第一七号証、第三一号証、乙第三号証、第一三号証、第一五号証、証人松村守の証言によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件施設のオーナーの募集は、原告会社が、昭和五八年秋ころから四期に分けて行い、第一次募集は一口三二〇万円、第二次募集は一口三四〇万円、第三次募集は一口三六〇万円、第四次募集は一口四〇〇万円で、計一八〇〇口を募集した。

(二) 本件施設は、昭和五九年三月ころ完成したが、完成時までには、ほぼ全部の口数が契約済みとなった。

(三) 建物完成後、原告会社は、オーナーから登記諸費用を預かって、法務局に各口につき一八〇〇分の一の持分の登記を申請し、その旨の登記がされた。

(四) 本件施設の土地の取得原価は約四億七〇〇〇万円、建物等その他の売上原価が約二二億二〇〇〇万円で、売上高が約六一億五〇〇〇万円、売上利益約三四億六〇〇〇万円、営業利益約二六億七〇〇〇万円であった。

(五) 本件施設の敷地面積は三九四七平方メートル、建築延べ面積は七一〇〇平方メートルである。

これらの事実からすれば、本件施設における一口当たりの価値は、約一四九万円にすぎず、一口当たりの所有面積は約4.0平方メートルで客室一室を14.5人で共有する計算になる。

更に、オーナーは、共有持分の分割・単独処分が禁止されていることを考え併せると、本件施設が共有制の形態を採っているのは、施設の所有それ自体が目的なのではなく、オーナー資格の取得代金のうち、当該共有持分の財産的価値を保全するための手段としての性格が強いものであり、実質的には、本件施設の利用料金の前払いとして金員を預託し、その見返りとして施設を無料又は安価で利用する会員制の形態と異ならないということができる。

したがって、所有者だから料金を支払わないのは当然であるとする原告らの主張は採用できない。

四争点4について

1  被告は、本件施設のオーナーの利用行為が法一一四条四項にいう「政令で定める場合」(施行令四一条二号)に該当すると主張する。

施行令四一条二号は、「法一一三条一項の場所の経営者が入会金、権利金又は会費等を受けて遊興、飲食又は宿泊若しくはその他の利用行為をさせる場合」と規定している。

本件消費税は、消費行為の対価としての料金の支払能力に担税力を見出して課税するものであるので、同じ飲食行為をしても、その支払う料金が異なり、その結果、税額が異なることがあっても、そのこと自体は何ら不均衡とはいえない。

しかし、その利用行為の料金が無料であったり著しく低いものであるのが、料金以外に何らかの経済的給付が別途されていることに起因するものであるならば、形を変えた料金の支払があったとみるべきであり、そのようなものについて、形式的な料金の支払のみに着目して課税することは、課税の不均衡を招くこととなるので、実質的な経済的給付を課税標準に取り込むこととするのが法一一四条四項の趣旨である。

2  そこで、この観点から検討するに、前記認定事実によれば、オーナーは、原告会社に対してオーナー資格の取得費として一口について三二〇万円ないし四〇〇万円を、原告管理組合に対して本件施設の管理費として月々四〇〇〇円を支払っている。

そして、本件施設の所有権としての価値が、前述したとおり、それほど高くなく、共有制の形態は、単に財産保全のための手段にすぎないことからすれば、オーナー資格の取得費には、本件施設の利用行為についての対価としての面も含まれているとみることが可能であるし、管理費についても、その用途が本件施設の設備についての修繕費や光熱費等であることからすれば、同様に解することができるだけでなく、課税しないことがかえって一般のホテルにおける利用行為との間に不公平・不均衡を生じさせるものである。

3 したがって、本件施設でのオーナーの利用行為に対する料金が無料あるいは安価であるのは、取得費及び管理費の支払に起因しているといえるから、これらは、施行令四一条二号の「入会金、権利金又は会費等」又は同条三号の「前二号に掲げる場合に準ずる場合」に該当すると解すべきである。

4  以上のとおり、オーナーの本件施設の利用行為は、法一一四条四項の場合に該当すると解すべきであるが、この点についての原告らは、第三、三のとおり反論するので、これらの点について検討する。

(一)(1) まず、原告らは、原告会社が、本件施設の売買について不動産の譲渡益として法人税、住民税、事業税を課され、預託金制ホテルより多額の税負担を負っていること、オーナーが各持分に応じた固定資産税をそれぞれ課されていることをとらえて、被告が、課税の種類に応じて、一方では、形式を重視して課税し、他方では実質をとらえて課税しているのは、禁反言ないし信義則に反すると主張する。

(2) しかし、原告会社への不動産の譲渡益に対する課税については、本件施設の売買時にかかる諸税は、売買に伴う譲渡益を課税客体として売主に課するものであるのに対し、利用時にかかる本件消費税は、利用行為を課税客体として利用者に課するものであるから、経営者が納税義務者とされているのは徴税技術上の要請にすぎず、経営者を最終負担者とする趣旨ではない。したがって、両者は、課税客体を異にしており、二重課税となるものではない。

また、預託金制ホテルとの不均衡についても、共有制ホテルの場合には、不動産譲渡の形式をとっており、それにより、預託金制の場合に比して財産の保全を図ることができるという利益を販売の際の利点として掲げているのであるから、不動産譲渡益について課税が行われても不当とはいえない。

(3) 次に、オーナーへの課税についてであるが、固定資産税は、固定資産を課税客体として固定資産の所有者に課するものであり、本件消費税は、前述のとおり、利用行為を客体として利用行為者に課するものであるから、両者は、それぞれ課税客体を異にし、別個の租税法律関係を形成するものといえるから、同様に二重課税となるものではない。

また、固定資産税は、課税上の便宜のため、所有者として登記又は登録されている者に対して形式的に課せられるものであり、本件では、前記認定事実のとおり、オーナーは、不動産の所有者として登記されているのであるから、固定資産税が課されても不当とはいえない。

(4) したがって、各課税庁は、それぞれの税法の立法趣旨に従い、それぞれの課税客体に対して課税を行っているものであるから、原告らが不当に過重な税負担を負っているわけではなく、また、被告が本件消費税を課することが禁反言の原則ないし信義則違反にも当たらないから、原告らの右主張は採用できない。

(二) 次に、原告らは、オーナーの本件施設の利用行為が施行令四一条に該当するのであれば、施行令の規定は、政令への委任の限界を超えており、租税法律主義に反すると主張する。

しかし、前述のとおり、オーナーの本件施設の利用行為は、法一一四条四項の立法趣旨からして、本件消費税を課することが必要な場合であるから、施行令は、法が政令へ委任しようとする範囲を超えるものではない。

したがって、租税法律主義に反するとの原告らの主張は採用できない。

(三) 更に、原告らは、施行令四一条が本件のように利用行為の潜在的対価を受領していない場合も含むと解するのであれば、課税要件明確主義に反すると主張する。

しかし、前述のとおり、オーナーは、オーナー資格の取得に際し、四〇〇万円を原告会社に対し、管理費として月々四〇〇〇円を原告管理組合に対し、それぞれ支払うことにより、本件施設を無料又は低料金で利用することができるのであるから、本件は、原告らの主張するような利用行為の潜在的対価を受領していない場合にはそもそも該当しない。

したがって、原告らの右主張は前提を欠き、採用できない。

五争点5について

1  被告は、法一一四条四項にいう「通常支払うべき料金」は、オーナーメイトの料金である七五〇〇円であると主張するのに対し、原告らは、オーナーが無料宿泊券を使わずに宿泊する場合の料金である四八〇〇円であると主張する。

2  そこで、この点について検討するに、法一一四条四項は、経営者が利用者から料金以外の何らかの給付を受け、そのため当該利用者に対し無料又は低料金で利用行為をさせる場合、料金が無料であるからといって、課税をしなかったり、低料金であるからといってこれに相当する税額でしか課税しないとすると、他の料理店等や宿泊所等との均衡を欠き、税負担の回避を容易に行うことが可能となるので、税負担の公平、税負担の回避の防止のために経営者に対し、その利用行為者が料理店等における遊興等の行為について通常支払うべき料金を支払ったものとみなして算定した額により、税を課するものであることからすれば、「通常支払うべき料金」とは、当該場所について経済的に特別の関係を有しない者が当該場所を利用した場合に通常支払うべき料金をいうと解すべきである。

このような法一一四条四項の趣旨によれば、「通常支払うべき料金」とは、本件施設と特別の関係を持たないビジターの料金が該当し、それがない場合には、施設利用の原価に一定の利益を加えた金額が該当すると解すべきである。

そこで、この観点から検討するに、前記認定事実によれば、本件施設には、ビジター料金の設定はなく、オーナー以外の者の利用料金としては、オーナーメイトの利用料金である七五〇〇円、ダイヤモンドクラブ会員の利用料金である一万一〇〇〇円の二種類があるが、本件施設の利用人員は、昭和六三年では、オーナーが約九〇〇〇人、オーナーメイトが約一万二〇〇〇人、ダイヤモンドクラブ会員が約九〇〇人、メイトが約二三〇〇人、平成元年度では、オーナーが約一万人、オーナーメイトが約一万二〇〇〇人、ダイヤモンドクラブ会員が約八〇〇人、平成二年度では、オーナーが約九〇〇〇人、オーナーメイトが約一万五〇〇〇人、ダイヤモンドクラブ会員が約一三〇〇人、平成三年度では、オーナーが約一万人、オーナーメイトが約一万四〇〇〇人、ダイヤモンドクラブ会員が約一四〇〇人であり、オーナーメイトによる利用がオーナー以外の者の利用に占める構成比は極めて高いこと、オーナーメイトは、オーナーの指定する者であって、原告らと直接の関係はないことからすれば、オーナーメイト料金が本件施設におけるビジター料金に該当するということができる。

また、本件施設の利用にかかる原価は、別紙1のとおり六〇九〇円であることが認められるから、この点からしても、オーナーメイトの利用料金である七五〇〇円は、社会通念上、本件施設利用の原価に一定の利益を加えた金額として妥当であるといえる。

したがって、「通常支払うべき料金」は七五〇〇円であると解するのが相当であり、原告らと特別の関係を有するオーナーの利用料金である四八〇〇円を「通常支払うべき料金」とする原告らの主張は採用できない。

六以上より、本件施設におけるオーナーの利用は、法一一四条四項に該当し、みなす料金は七五〇〇円と解するのが相当であるから、これに基づく被告の本件各更正処分及び賦課決定処分は適法である。

第五結論

よって、原告らの本訴各請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官辻忠雄 裁判官吉野孝義 裁判官伊東浩子)

別紙1 経費計算〈省略〉

別紙2 一室一回利用当たりの損益分岐点ルームチャージ〈省略〉

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